高齢者・長期療養者だけではない疾患
高齢者だけではなく、若い人でも自力で体を動かせなくなると、驚く程容易にできてしまう褥瘡(=床ずれ。ジョクソウと読みます)
放置すると表皮だけではなく、骨が見えるほどに組織が壊死してしまい、そこまで行くと完全治癒までの道のりは長く、感染を起こして命に係わる事もあり、どうにか回避したい疾患のひとつです。
実は驚くほど短期間で出来る!
精神科病棟で勤務していた頃、心が病的に疲弊してまるで身体を動かせなくなってしまった若い患者さんに、ほんの数日という短期間で褥瘡が出来てしまい、驚いた事があります。
看護師である自分さえ、高齢者では無いからと、それほどのリスクとは考えていませんでした。
褥瘡=高齢者の疾患ではありません。驚いたことに条件がそろってしまうと僅か一日で褥瘡と呼べるほどの皮膚病変は起こってしまうのです。
何が原因?
当たり前の事ですが、最大の原因は長時間の皮膚の圧迫です。
そこへ栄養状態の不良や皮膚表面の蒸れ、むくみなど、さまざまな要因が追加されます。
つまり、若い人でも自力で身体が動かせず、食べれなくて栄養状態が悪くなり、一時的であるにせよ、オムツをしていたりすると、途端にリスクは跳ね上がります。
持続的な圧力は血液や体液の循環を遮断します。蒸れて柔らかく浸軟した皮膚は弱く脆くなり、その再生を促す材料(栄養)が血液や体液によって供給されていないと皮膚はあっという間に防御力を失い、傷ついて壊死を始めてしまうのです。
どうやって防ぐ?
例えば、オムツを濡れたまま放置しないなど、皮膚が蒸れた状態を出来るだけ回避する事も大事なのですが、最大の予防策はやはり「除圧」に尽きます!
適度に定期的な除圧さえ出来ていれば、他の要因があっても発症までには至りにくいのです。
病院や施設なら体圧を分散し、除圧に有効なエアマットや、体位交換を自動でしてくれるベッドまであるし、ケアの一環としてもスタッフが定期的に体位交換をしてくれます。
しかし、自宅療養中は必ずしも必要な物品や、複数の介助者が揃っている訳では無いので、あらかじめ知っておきたい知識や工夫が必要になります。
在宅で出来る工夫
使って欲しい物に先ずはバスタオルがあります。動けない療養者の真下に肩からお尻の下辺りまで常にバスタオルを敷いておきます。
これが有れば、バスタオルの二か所を持って片側だけを簡単に持ち上げられます。
そして片方だけ持ち上げた身体の下にクッションや巻いたタオルなどをお尻や肩・背中などに深めに挟み込み、身体を傾けます。これを、右⇒入れない⇒左⇒入れない⇒右…と繰り返して同一箇所の持続的な圧迫を防ぐのです。
あと、ベッドの頭側のギャッジアップを繰り返していると身体が少しずつ足元側に下がってきて丁度いい高さにキープ出来なくなりますね。これもベッドをフラットにしてから膝を立てて摩擦を減らし、頭側からバスタオルをリフト代わりにして引っ張れば、療養者や介助者の体格にもよりますが、一人で直してあげる事も可能です。
ちなみに、ベッドの頭側をギャッジアップする時は、少しだけ足元側もギャッジアップしてから頭側を上げましょう。お尻辺りに出来たくぼみが滑り止めになり、身体がずれにくくなるのでやってみて下さいね。
実は、この「ずれ」によって皮膚にかかる力も褥瘡の原因のひとつなのです。
膝から下の位置にも、大き目のクッションや巻いたタオルケット等を入れて「踵」を浮かせる事も忘れないで下さい。「踵」はお尻の「仙骨」と呼ばれる骨の辺りに次いで褥瘡が起こりやすく、見逃されやすい箇所なのです。
最近では、介護用にいろんな形や使いやすい体位交換用のクッションが売られていますが、残念な事に高価なものが多いのです。
それよりも、100均でも手に入るクッションをいくつか合わせ技で使ったり、使わないバスタオルやタオルケットを枕カバーに詰めたりして手作りしても、効果が変わる訳ではありません。
要は、一回でも多く(目安は2時間ごとと言われています)圧力を逃す回数を増やす事。そのためにやり易い方法を整えておくことが大事なのです!
褥瘡を防ぐ栄養
褥瘡を起こしてしまう人に多い特徴として「栄養不足」があります。
見た目はふくよかに見えていても褥瘡が起きてしまう事はあるのでわかりにくいですが、足りないのは脂肪ではなく、タンパク質(肉・魚・卵・豆類)
高齢者の血液データを見ると、驚くほどタンパク質の値を示す数値が不足している事が多いのです。あとはカロリーもですが、ビタミンやミネラル等もバランスよく必要になります。
病院では、血液中のタンパク質の数値を見て褥瘡リスクを判定しており、食事にタンパク質が摂れるゼリーの補助食やミネラルのサプリメントを追加するなどして治療に使われています。市販もされているので、在宅療養で取り入れる事も可能ですよ!
知識が無いと簡単に発症してしまう褥瘡ですが、寝たきりの人の自己申告でわかる事はまず有りません。静かに確実に起こり、わずかな兆候から驚くほど速く進行していくのです。
圧力がかかり続けている場所(お尻・踵・後頭部・肘など)に消えない発赤や水疱、皮膚の剥離などを見つけたら、確実な除圧を繰り返して早期に悪条件を回避し、褥瘡予防していきましょう。それでも治る兆しが無い時は早めに皮膚科治療を受けて下さいね。
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