誤嚥性肺炎と口腔ケアの密接な関係
過去に、重症の誤嚥性肺炎のため、院内最高齢で入院してきた患者さんがおられました。
高濃度の酸素と点滴につながれ、意識も殆ど無く、看取り間近と言われていたのですが、まさに口腔ケアをきっかけに完全復活した事例を見たことがあります。
何故口腔ケアだったのでしょうか?
気を付けたい口の中の「乾燥」
キーワードの一つは「乾燥」でした。
冬になると唇が乾燥して薄皮がめくれてきたり、口の周囲についた汚れが乾燥して貼りついたように取れにくくなることがありますが、季節を問わず同じ事が口の中でも起こってしまうのです。
嚥下力も咀嚼力も低下した人は、唾液の分泌量も減少しています。口の中に残ってしまった食物残渣を、潤ったなめらかな舌で取り除いたり、後で唾液で飲み込んだりする事も難しくなっているのです。
話す機会が減っている事も多く、そうすると唾液分泌量は更に減少し、口の中の自浄作用は極端に落ち込んでいる状態と言えます。大げさでは無く、酷い状態の人は口腔内がカラカラに近い状態になってしまいます。
そうすると汚れは「乾燥」によって固まり蓄積し、粘膜なのに表面がカチカチになっている事すらあるのです。
食べてないのに口が汚れるの?
肺炎に至るまでの前段階で、発熱や食欲低下のため食事を摂らなくなったとしても、口腔粘膜の新陳代謝は繰り返されています。古くなって剥がれた口腔粘膜細胞など、タンパク質汚れも確実に蓄積していくのです。
更に「乾燥」により口の中のネバつきがひどくなり、汚れは舌や上あごに付着していき、その量はだんだんと増えて肥厚していきます。それなのに、食事をしなければ汚れないと思われがちなため、積極的な口腔ケアをされなくなります。
やがて汚れの表面が固くなって一枚の皮や異物のようになり、そんな汚れが剥がれたり移動したりして、喉の奥にまで溜まっていくのです。
例に挙げた最高齢の患者さんは、極端なケースだったのですが、まさに喉の奥に溜まった汚れによって肺に感染症を起こしていました。更に汚れが「乾燥」によって固まって大きくなり、気道まで塞いで窒息しかけていたのです!
この方の治療は口腔内に溜まった汚れを少しずつ丁寧に取り除き、口腔内をしっとり潤いのある状態に保つ事で、一気に改善に向かい始めたのです。
口腔ケアの介助方法
義歯のある人はご飯を食べない時は外しておくか、食後洗浄してから再装着します。
歯のある人は、少量の歯磨き粉や口腔洗浄剤をつけた歯ブラシで、定期的に優しく丁寧に磨きます。歯ブラシは鉛筆持ちをすると強くなり過ぎず、適切な圧力で磨けますよ!舌や上あごなども、歯ブラシで優しく撫でるようにして汚れを除去しましょう。
うがいが出来るレベルの人なら、うがいして終了で良いのですが、うがい出来ない状態なら、歯ブラシに湿らせたガーゼを巻き付けて磨いた場所を拭っていきます。
歯ブラシを使わなくても口腔清拭専用のウェットティッシュや、先に小さなスポンジがついたスティック等、手軽に口腔ケアが出来る便利グッズも数多く市販されています。一度探してみてくださいね。
そして、最後に必ず「乾燥」予防を!市販の白色ワセリンでも良いのです。
今は、乾燥予防効果のある専用ジェルもあり、フルーツやミントのフレーバー入りなど、良いものが沢山売られています。舌やお口の中全体に塗布し、しっとり潤いのある状態にしたら終了です。
口腔ケアとは異なりますが、一度に沢山の水分が摂れない人も多いので、少しずつでも回数多く水分を飲んでもらう事も、口腔内の「乾燥」対策に役立ちます。
気を付けて。口腔ケア介助の注意!
在宅療養中の人を介護している人が、口腔ケアの介助をすることはよくある事だと思います。
ただし、〝絶対に〟気を付けて欲しいポイントがあります。
口腔ケアの介助中、ケアを受けている人が口の中を触られてびっくりし、反動で噛んでしまう人もいます。認知症の症状で介護抵抗を示し、噛んで来る人もいるのです。
実は病院内でも、口腔ケアを専門にしてくれている歯科衛生士や看護師も、患者さんに噛まれる事故は起こっています。
困るのは、噛まれてケガをする事だけではないのです。噛んでしまった人が何らかの感染症を持っていた場合、噛んだ人の唾液から噛まれた人の血液などを介し、感染してしまう可能性が出てきてしまうのです。
療養中の人が何らかの感染症を持っていた場合(特にB型・Ⅽ型肝炎)、噛み傷から感染する可能性がゼロでは無いので、必ずゴム手袋などをはめ、器具などを使って噛まれない方法でケアをするよう心掛けて下さいね。
それでも、もし感染症がある人の口腔ケア中に、噛まれてケガをしてしまったら、すぐに流水で洗い流して病院を受診するようにして下さい!
災害時にも、歯磨きなどが出来ない事で誤嚥性肺炎のリスクが高まると言われます。食べていてもいなくても、口腔ケアは誤嚥性肺炎リスクを考える上で避けて通れないポイントである事は間違いありません。
原因は「乾燥」だけでは無いのですが、定期的な口腔ケアが出来れば、誤嚥性肺炎は防げる可能性が高い疾患と言えるのです。
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