生涯有病率は15人に1人!
これまで看護師以外でもいろんな職種と職場を経験しましたが、様々なストレスが原因と思われる休職者や退職者が、探せばどの職場にも居た気がします。
私が勤務していた精神科でも、日常生活を普通にこなせていた人達が休職や休学をして多数療養に来ていました。
15人というと核家族計算でも4~5家族に一人は発病する罹患率。決して珍しい疾患ではありません。
起こりやすい状況とは?
鬱病は、特定の要因を持ち合わせて生まれてきた一部の人の精神疾患ではありません。
このストレスフルな社会の中で、誰もが発病し得る疾患であることは間違いないのです。
例えば、ホルモンの影響や社会的要因により、女性は男性の2倍近く発病しやすく、若年層や中高年層に多いという統計があります。
離婚や大切な人との死別や大きな喪失体験、産後鬱といったものや、トラウマになるような心の受傷体験などがきっかけになると言われます。
若く未熟な心はストレスの対処法をまだしっかりとは身につけていないのです。責任を負う世代の中高年層は、辛くても容易に弱音を吐く事ができません。離婚はもはや日常的に話題になる時代だし、死別は誰もが経験するもの。いじめや虐待も珍しい事件ではありません。
つまり、誰もが一度は経験する状況が、この疾患のきっかけとなり得るのです。
そして、自殺という不幸な末路もあり、命に関わる疾患でもあるのです。
自殺のこと
若い子に多いのはリストカット。手首や首など「ためらい傷」と呼ばれる薄い切り傷程度のものも多いです。ですが、精神科の自殺歴のある人達の実際のやり方は本気度が高く、生きているのが不思議なほどの様々なエピソードに出会います。それが原因で障害を負っていたり、大きく人生が変わる人もいます。
精神科病棟には、一定の自殺リスクを保持したままで療養している患者さんもいます。なので、残念ながらスタッフの目をすりぬけ、びっくりするような手段を使って病院内で思いを遂げてしまう事例にも出会います。
病院では、まず薬による症状のコントロールはもちろん、最低限の食事や水分(点滴なども含めて)を維持して命をつなぎます。
そして、心や体力が消耗しないよう気を配って受容的に関わり、一人にせず安全を確保しながら見守りを続けます。
更に睡眠をしっかり取ってもらい、不安感が強い時は頓服薬で心の安定を図り、例え僅かな時間でも健康的な思考に戻りやすい状況を整えていきます。辛く苦しい思考に彩られた時間から離れるため、その人に合った手作業や活動を通じて心のリハビリ(OT:作業療法)も始めます。
そして定期的な診察で必要な薬の微調整を繰り返し、カウンセリングや傾聴を続けて心の回復を待つのです。
伝えて良い言葉とダメな言葉
NGなのは、励ましたくて善意で伝えてしまう「頑張って!」という言葉。何故なら、鬱病にまで追い込まれてしまったのは、心が闘いつくしてもう頑張るエネルギーが尽きてしまった状況だからです。「もう頑張らなくてもいい」という言葉と、それが出来る環境を作ってあげる事。鬱病になった原因についての言及や詮索は要りません。
逆に伝えたいのは「大丈夫」や「鬱は治る病気」などの保証の言葉。
そして「人に頼ってよい」「休息して良い」という安心感です。
「そばにいる」「見守る」とのメッセージも、〝自殺しない自信〟がない人にとって安心感を与えられる場合があります。『本当は自殺したくないけど、発作的にそんな行動をとってしまいそうで怖い』という言葉もよく聞くからです。
あと、鬱病になると、悲観的になって仕事や学校を辞めたり、転居や離婚を急いだりする状況をよく聞きます。ですが重大な決断は回復(治療が終了するなど)してからするように声を掛けてあげるといいですね。
大切な人を失わないために
真面目に生きていれば「死にたい」と考えてしまう程の状況に、誰しも一度や二度は遭遇するもの。必ずしも弱い人がなる疾患では無いのです。
眠れない・眠りが浅い、食欲や気力が無い、涙もろい、「死にたい」や「消えたい」と思う、など。これらの症状が毎日のように2週間以上続く場合は、近くの精神科や心療内科のクリニックへ受診をおすすめします。
まずは家族だけで相談にのってもらえる病院もあります。問い合わせをして代理受診し、そこで注意点やアドバイスをもらい、診察を受ける時は時間に余裕を持って予約するようにして下さい。
鬱病の症状には日内変動があり、睡眠リズムも乱れているので、朝が苦手です。本人が受診出来るなら、午後の診察が予約出来ると良いと思います。しかし症状が重い場合は付き添い出来る同居の方などが、あらかじめクリニックなどに情報を伝えて指示を仰ぐようにして下さい。
緊急入院が必要な場合もあり、早めの受診の方が適切な入院先を探せるからです。
そしてもう一つ知ってもらいたいのは、回復途中の鬱病患者に自殺が多いという事実。
鬱病は治る病気ではあるのですが、治癒までの時間のかかり方は年単位の人もいてそれぞれです。
元気になり始めても、鬱病と診断されて治療を受け始めたら、周囲の人の見守りの目は簡単に解除しないよう注意してくださいね。
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