「腫れ」って何が起こっているの?
友人から受けた健康相談のお話です。
病気療養中のご家族の足が腫れて病院に行ったが飲み薬が処方されただけだった、との事。塗り薬や張り薬などを期待していたのかも知れません。
腫れはどんな時に起きるの?というものでした。
「腫れ」と言っても種類があり、原因も対処法も異なる為、まとめてみようと思います。
腫れの種類
(以下、日常や臨床で良く出会う代表的な腫れのケースのみ)
浮腫:腫れというのは組織や臓器、器官などの容積が増した状態を意味しますが、浮腫の容積の主な原因は水分。皮下組織にいわゆる水分が溜まった状態なので、四肢や全身など広範囲に及ぶものも多いです。
炎症を伴わず、どちらかと言うと熱を持つより冷たいイメージがあります。指で押すと凹み、跡が残りやすいです。
浮腫と言えば足を思いつく程、足に症状が出る事が多いのは、重力で水分が下に落ちるから。通常は両側性で夕方になると足にむくみ(=浮腫)が出やすい人って多いですよね。
本来ならその水は上半身に戻るべきなのですが、さまざまな原因によってそれが困難になり、バランスが崩れている状態なのです。下半身だけでなく、寝たきりの人の浮腫なら背部側の広範囲に現れます。
腫脹:何らかの原因で炎症を起こして腫れたもの。血管そのものが拡張したり血液内の水分(血漿)や血球、リンパ球等が血管の外に染み出しています。
炎症には4兆候(赤い、熱い、痛む、腫れている)があるので他の3つの兆候が一緒に出ている事が多く、原因や状況によって広範囲の物も限局的なものもあります。
感染が原因になる事が多いですが、腫瘍・物理的な刺激・アレルギーなどでも起こります。
腫瘤:内容物の種類、良性と悪性の区別、原因に関係なく体表や体内に存在する「塊」=しこりの事です。限局的で内容物はさまざまであり、血液・脂肪・腫瘍(悪性のものは癌)など。検査前の原因のわからないコブ状のものも、いったん腫瘤として扱ったりします。
対処について
「腫れ」はその原因によって対処が異なります。
質問をしてきた例の友人のご家族のケースは、両足が腫れており主治医が薬の副作用による「浮腫」と判断していました。
水分排出の為に利尿剤を出されましたが、炎症は無いので張り薬も化膿を止める塗り薬も必要無かったのです。
更に友人は家族のためにリンパマッサージをきちんと学んで施術していたため、余分な水分が排出された上にリンパ液の循環まで改善されたので効果はてきめんに表れ、改善に向かいました。
一般的には足の浮腫の場合は足を高く上げて寝たりすると、重力が水分を元に戻してくれるので改善に向かう事が多いです。しかし心臓や腎臓に問題を抱えている事もあるので、やはり診察を受けて原因を判別する必要があります。
では、その足の腫れに熱感があり、赤味があればどうでしょうか?これは「炎症」ととらえるべきなので、その原因が何かある筈です。
小さな傷から蜂窩織炎という入院すら必要になる感染を起こしてしまう事もあるので、足のどこかに傷が無いかを調べます。
もしくは転倒してぶつけるといった強い刺激が加わった経緯は無いか、植物によるかぶれなどアレルギー反応の可能性は無いか、など原因を探ります。
炎症の場合基本は冷却処置なのですが、原因を特定するために採血をして菌や炎症のレベルを判定し、抗生剤を点滴したり、薬による継続した冷却処置といった治療が必要なケースもあります。
しかし、浮腫の時のようなマッサージは刺激を加えてしまう事になるのでNGです。なので、原因不明のまま何日も腫れているようならやはり受診が必要になります。
では、赤くも熱くも無く、押しても凹んだままにならない「腫瘤」が足に出来たらどうでしょう?
何か腫瘤が出来るきっかけとなった出来事が無かったか、いつ頃からどのように大きくなったのか、など経過情報が必要になります。場合によってはCTやMRIなどの検査、腫瘤そのものから組織を取り検査をして判断する事もあります。
私の家族も幼い頃、足に突然硬いしこりが出来、検査の結果良性の肉腫であることが判明しましたが、悪性であればかなり深刻な宣告を受けていたかも知れません。
良性ものは転移はしませんが、そのままにしておくと更に大きくなったり、痛みを伴うので切除手術を受けていました。良性=放置できるという事でもないのです。
中には勝手に消失してしまうようなものもありますが、悪性であればすぐに手を打たなければならず、腫瘤の場合は何と言っても、先ずは中身の判別が必要になります。
「たんこぶ」という腫れの注意点
臨床で良く出会う腫れで多いのは、足や全身性の「浮腫」と、頭のいわゆる「たんこぶ」。
浮腫は前述したとおりですが、たんこぶとなると少々厄介です。
本来は「たんこぶ」とは言わず、「皮下血種」や「皮下腫脹」のことなのですが、よく使う一般的な表現ですよね。
特に小児や高齢者の転倒で頭に出来る事が多く、転倒に出会うとまず頭をぶつけていないか、外傷の有無と共に腫れの有無を見ます。
頭部の場合いわゆるたんこぶが出来やすく、打撲によるものなので強い刺激により一時的に炎症を伴う「腫脹」状態になります。
そして時間と共に赤味や熱、痛みが取れて「腫瘤」となる事が多く、たいていのものはそのまま腫れの内容物も吸収されて無くなってしまいます。
ただ困るのは「たんこぶが出来れば大丈夫」という根拠のない迷信です。
頭蓋骨の外部で、皮下出血・血管の拡張・血漿成分や血球が血管から染み出す、という「腫脹」や「腫瘤」が一時的に出来るだけであればもちろん良いのです。
しかし、それは頭蓋骨の外で起こったら内部ではそれが起こらないという事ではありません。当然なのですが、両方起こる事だってあるのです!
脳そのものに損傷を負わなくても、例えば硬い頭蓋骨内で出血が起これば脳を圧迫してしまい、脳が本来の機能を果たせなくなります。
しかも、外から見えない状況であるだけにその程度も場所も、いつ大きくなっていくかもわからないから怖いのです!
打撲してすぐでは無く、後で少しずつ出血が起こったり広がったりという事もあり、中には数週間や数カ月かけて時間差で命に関わる容体へと急変する事もあるので厄介なのです。
頭部打撲の場合、見た目の外傷や腫れに気を取られ過ぎる事なく、その後の本人の様子をしっかりと観察することが重要です。
転倒を境に、意識状態がボーっとしている・寝てばかりいる・身体の一部や全部がいつものように動かない・ふらつき・吐き気や嘔吐など、いつもと違う症状が出ている時は、町のクリニックでは無く、救急外来か脳神経外科を受診してください。
頭の中を早急に検査できる設備が必要であり、レントゲンだけでは不十分なのです。
転倒直後、意識消失や記憶障害が起きる脳震盪(のうしんとう)がありますが、一過性のものであり後遺症が残らないものもあります。
しかし、そのような症状が出るレベルであれば、やはり頭の中で何も起こっていないかの鑑別は必要なので、腫れの中でも頭の「たんこぶ」は迷信に振り回されることなく対処してくださいね。
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