手術後の痛みを感じない⁉~痛みについての疑問~

雑記

ある筈の「痛み」が無い?

最近、手術を終えたばかりの知人がびっくりするくらい痛みを感じないらしく、周囲が驚いています。

何か悪いことが起きているのではないかと不安になり、看護師をしている私に相談がありました。

いったいどういう事なのでしょうか?

「痛み」の個人差

「痛み」って実はとても主観的なものなので、個人差の大きい感覚であることが知られています。

医療用麻薬を使うこともある癌の耐え難い痛みすら、他の症状は現れても、最後まで「痛み」をほとんど訴えないまま旅立つ人もいるのです。

なので「痛み」は客観的に評価する事が難しく、病院などでは主観的判断を数値化したペインスケールというものを利用する事があります。

例えば「耐え難いMAXの痛みを10、痛みの無い状態を0だと例えたら、今はどれくらいですか?」と尋ねて、痛みレベルを客観的に把握したりします。

そして、傷の痛み…というかこの場合の手術後の傷=挫滅のない綺麗な人工的につけられた切開創は、どれも同じ訳ではありません。よく動かす場所か否かであったり、縫い方や、縫合糸の種類(抜糸しなくても時間と共に溶けてなくなるタイプの糸など)、縫合するドクターの技術レベルも影響するかも知れませんが、実は認知レベルや時間帯なども関係しているのです。

よくあるのですが、認知症の人のオペ後はとても怖くて、痛みで動くことなんて到底できない筈の動きを、いとも簡単にやってのけてしまいます。

管という管をすべて引き抜いて血まみれになりながら、人工関節を入れたばかりの足でベッドサイドに立っていたりする事もあります。一般的に抱える筈の「痛みへの恐怖」を感じていない事が関与するのかも知れません。

あと、昼間は見舞客の来訪(今は感染対策で許可されないケースが多いですが)や検査、食事やテレビなど、気を紛らわせる事が多いですが、そういった刺激が無くなる夜は痛みが出やすくなります。感覚が痛みに集中してしまい、意識しやすくなる事が知られています。

痛みへの夜の対処=睡眠薬の頓服利用

そのような事もあり、入院中はいとも簡単に睡眠薬を出してくれて、夜はそんな感覚から遠ざけさせてくれます。

実はある程度の予測をして、入院した時点で不眠時用の睡眠薬が頓服薬(症状のある時だけ一時的に利用する薬)として既に処方済みの場合も多いのです。

何故なら、睡眠不足のしんどさは更に痛みを呼ぶ事があり、そうするとリハビリ等も含め治療そのものを遅らせる事にもなります。そういった悪循環に陥らないようその状況を回避しているのです。

ですから、入院療養中に眠れない事が辛い時は、我慢せず睡眠薬をもらえないか是非聞いてみて下さい。「睡眠薬なんて癖になってしまうのが怖い」との声をよく聞きますが、そもそも入院療養中は心身に辛い状況を抱えているのです。

いつもより睡眠困難な状況であり、同室者のいびきや物音がうるさくて眠れない等、環境も大きく異なる上に身体も睡眠を必要としています。

「不眠症」とでも診断されない限り、頓服で時々利用する程度なら退院の時に睡眠薬まで処方されることはありません(精神科の場合を除きます)。退院して日常生活に戻れば、眠れるようになる人が殆どなのですから。

痛みがないと危険?

さて、ある筈の痛みをあまり感じない事に不安を覚える人も居るかも知れませんが、「痛みを感じていない」は決して悪いことの前兆では無いので心配は要りません。

感染兆候(腫れたり化膿したりすること)が無く、挫滅のない綺麗な傷(=一般的な手術後の傷)は痛みが軽く済むことはよくあります。

痛みを感じなくて危険なケースは神経障害などがあるケースですが、麻酔から覚めていく過程で神経伝達が復活出来ているかは必ずチエックされています。もし、そういった元々の疾患が有れば、そこは必ず確認されてから手術しているので大丈夫ですよ!

満たされていると痛みは感じにくい?

痛みには「霊的な痛み」(死生観等から来る肉体的、精神的な痛み)と言われるものすらあり、何か他にストレスを抱えている時は現れやすく、心が満たされていると感じにくくなるもの。

手術後の痛みをあまり感じない時というのは、はたまたま良い条件が重なっているケースかも知れませんが、中には「手術後なのだから強い痛みがあるのは当たり前」と痛みを無意識に我慢して表現しない人もいます。

痛みは感じ方だけではなく、表現の仕方にも個性があるもの。ですが、こんな時の根性論は不要なので、あまり痛みを表現しないタイプの人も、手術後の痛みはきちんとアピールして鎮痛剤を利用しましょう。手術後はしっかり休息する事が必要なので、必ず鎮痛剤が処方されていますよ!

退院してから出る痛みとリスク

退院やリハビリ等、環境が変われば出てくる痛みもあります。安静度が緩和されても、一定期間の療養はしっかり続けるべきです。病院からの指示には従い、痛みが無いもしくは軽い場合でも、安静度を自己解釈して勝手に変える事は無いようにしましょう。

たまに聞くのが安静度を勝手に拡大した結果、悪化による痛みが出現、というケース。手術後は段階を追って安静度を変えていくのが普通です。退院後は体力も十分回復していない為、予期せぬ転倒をしても以前のように素早く手や膝をついたり手摺りにつかまったりしてケガの予防行動が取れる訳ではありません。その安静度が守れなかった患者さんが転倒して再手術というケースは実際にあるのです。そこも合わせての安静度である事を覚えておいて下さいね。

 

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