高齢者の入院で留意すべき事
突然の高齢者の入院。
長く生きていれば、持病のひとつやふたつあるでしょ!と思われそうですが、突然の入院もあるあるなのです。
その突然が人生を大きく変えてしまう事も…。
問題なのは、長い入院のケースだけとは限らないのです!では、高齢者に多い「入院による認知症の発症」について留意すべき事とは?
持病が無くとも
高齢者に多い突然入院のひとつが「骨折」
特に大腿骨頸部骨折は女性に多く、転倒によるものがほとんどです。なので「自力で歩ける」もともと元気なお年寄りの入院も少なくありません。
骨の折れ方にもよりますが、手術が決まればオペ後のリハビリを終え、リハビリ専門病院へ転院等のケースを加えると数か月単位の入院も珍しくはありません。
そして、肺炎も突然入院に多い原因のひとつ。さほど熱も出ていなかったのに、食欲が無い、元気が無いので念のため受診したら肺炎だった!など。高齢者は典型的な症状が出にくい特徴があるのです。
尿路感染も同様のパターンがあるので、持病が無くとも突然入院になる事って案外多いのです。
ウチのお爺(お婆)ちゃんは大丈夫⁉
入院してご家族が必ず面食らうシーンがひとつあります。
それは、とある書類へのサイン。
手術や絶食での点滴治療等、やむおえず一定期間の処置を行う時、手足を拘束することへの同意書なるものがあったりします。
「え?縛られちゃうの⁉」「ウチはしっかりしているから大丈夫なのに」と拒否感を感じるのは当然です。家族としては(むろん医療者にとっても)、どうにか避けたい状況のひとつ。
ただ、認知症のないお年寄りでも、「環境の大きな変化」や「孤独」「低刺激」といったトリプルパンチを食らうと、本当に、急速に認知症のような症状を発症してしまう…。
入院初期は特に、検査三昧や痛み等の苦痛も含め、不安になる要素が多く、不穏に陥りやすい状況ばかりなのです。
手術直後の絶対安静の足で、全ての管(点滴、尿管、酸素チューブ、手術直後の余分な血液を回収する管など)を引き抜いて歩き始めてしまう高齢者までいるのです!
そこで、安全を確保するためやむ負えず書類で同意をお願いしている、という次第。これ程極端では無くとも、近いケースは決して「稀」と言えるほどの頻度ではありません。
ただし、この状況は症状が固定した認知症ではなく「せん妄」とよばれる一時的退行であったりします。一見しっかりして見えている認知症とは縁の無さそうな高齢者も、残念ながら例外ではありません。
入院初日~数日の間の発症が、最も頻度が多いのです。
どうやって食い止めるの?
「環境の変化」これはもうどうしようも有りません。ただし、これについては少しずつ慣れてきて落ち着く可能性の方が高い要因です。ただ、いつも身近に利用している物を持ち込んで傍においてもらう等の工夫は出来ますね。
では「孤独」はどうするか?
個室などに入ってしまうと特にですが、まだ自力で動けない状況だとすると、看護師の検温や処置、Drの回診を除くと、人と関われるのは食事の配膳や排せつ介助(おむつ交換など)の時くらい。会話が殆ど無い日々なのです。
リハビリの時期になれば、随分変わってきますが、一番辛い入院時~手術直後はそれも無し!
なので、人との関わりを人づてでも遠隔でもいいから、少しでも増やしておくのがおススメです!
今は病室で携帯が使えるところも増えたので、迷惑にならない時間帯の定期的な電話、洗濯物のやり取りの中に手紙や写真を添えてことづける(「次は〇日後にお見舞い持っていくよ」「電話するよ」)等もできますね。
もし許可が出るなら、馴染みの家族のお見舞いは、何よりの予防策となります。その時の治療状況を説明し、回復を喜び、他愛の無い話をしてあげる事が効果的なのはいうまでもありません。
入院中の面会が厳しくなった昨今では、「モバイル面会」といったものも登場しています!スマホやアイパッドを利用した画面上の面会です。入院している病院がそのような面会を採用していないか、ぜひ問い合わせて利用してみて下さい。
例えモバイルでも、家族の顔や声を聴けて自分の声に反応してくれる事は、とても満たされた嬉しい時間になります。私も傍で見守りしましたが、下を向いてばかり居る患者さんの背筋が伸びたり、大きな声が出るようになったり…その表情や笑顔が証明しています!
入院中の高齢者にとって欲しいのは、そんな温もりや安心感です。一度の時間の長さより、回数の多さが大事なのです。
「低刺激」への対処の代表的なものは、テレビやラジオをいつでも使えるようにしてあげる事。よくTV視聴用の専用カードとかがあるので余分に購入して、切れないようにご準備を!好きなテレビやラジオの番組一覧を一緒に添えてあげるといいかも、ですね。
人によっては編み物や塗り絵、クロスワードパズルetc.も良いですが、ひとつ注意点があります。高齢者は目を使うことが苦手なので、一般的に本はあまり好まれません。
この点でも、目を疲れさせず、お金もかからないラジオは良く利用されています。イヤホンを必ず添えて、操作が簡単な物が良いですね。
もう一つ大事な要素
そして、忘れてはいけないとっても大事な要素。それは「時間」の概念を衰えさせない事。
その感覚を常に持たせる工夫が絶対に欲しいです。
入院していると、今がいつなのか何曜日なのか時間は朝なのか夜なのか…そんな事すら、わからなくなってしまうものなのです。
せん妄や認知症状発症への入り口は、そんなところにも開いています。
なので、見やすい大きな文字か、手元で確認出来るカレンダー、デジタルの時計等は、是非準備してあげて欲しいもののひとつ。
時計は、食事やリハビリ、おむつ交換や消灯など、時間の先読みが出来るだけでも刺激になり、気持ちの張りや治療の励みにつながる、とても大事なアイテムとなるのです。タイムスケジュールがわかりやすく表示してあると、それも不安を減らす要素になります。
時間を把握して生活する事で、入院中も日常と繋がり続ける事が出来る!という訳。
如何ですか?入院という非日常的なシーンでは、せん妄や認知症状は起きやすいと言えますが、一時的退行で済み、持ち直す事だって充分あります!
でも、その為にはやはり物心両面のサポートが不可欠。有ると無しとでは大違い‼なのです。
残念ながら、病院ではせん妄や認知症の予防まで請け負ってはくれないのです。大事なご家族の入院療養が決まったら、是非ともご参考にして下さい。
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